高齢化社会が進行する日本において、現在大きな注目を浴びているのが2030年問題です。2030年問題とは何か、それによって社会はどのように変化していくのでしょうか。2030年問題がIT業界にもたらす影響や、企業が備えるべきことをまとめました。

2030年問題とは

2030年問題とは、人口減少や少子高齢化の進行により、2030年に表面化するとされているさまざまな社会問題を総称する言葉です。

日本の人口減少はすでに大きな社会問題となっており、さまざまなニュースや記事で取り上げられています。総務省統計局が公表した人口推計によると、2021年10月1日現在の日本の総人口は1億2,550万2千人で、前年に比べて64万4千人の減少となっています。前年比0.51%の減少幅は、2016年以降5年連続で拡大し続けており、人口減少に拍車がかかっている現状が明らかになっています。

また、労働力の中核を担う15歳以上65歳未満の人口を示した生産年齢人口も、1995年に8,716万人とピークを迎えてからは減少の一途をたどっています。2015年の国勢調査では7,592万人まで減少していることが明らかになっています。生産年齢人口は、2030年には6,773万人(ピーク時の77.7%)、2060年には4,418万人(ピーク時の50.6%)にまで減少すると見込まれており、人口だけでなく労働力の大幅な減少が懸念されているのです。

あくまで生産年齢人口をもとにした大まかなイメージですが、2015年に10人でこなしていたプロジェクトを、2030年には7〜8人、また2060年には5人でこなさなければならないことになります。そう考えると、危機感を覚える人も多いのではないでしょうか。

日本の人口、また生産年齢人口が減少することで生じる問題にはさまざまなものがありますが、なかでも特に注目されているのが以下の2点です。

・労働人口の減少

・医療・介護に関する問題

労働力の中核を担うはずの生産年齢人口が大幅に減少することで、企業は人材の確保が困難になります。人材が不足すれば、多くの企業は現状を維持するので精一杯になり、思いきった施策を打ち出したり、新しいモノを生み出したりする余力がなくなるでしょう。そうなると、日本の経済活動そのものが鈍化するおそれがあります。とりわけ、人口の少ない地方都市は、その影響を大きく受けることになるでしょう。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2030年には65歳以上の高齢者人口が約3,700万人に増加し、人口の約31%は高齢者になると推定されています。

高齢者の割合が急激に増えることで介護・医療費が増加し、社会保障費などの財政を圧迫するだけでなく、医師や看護師不足の問題も相まって医療体制に支障がでると懸念する声もあります。また、高齢者が増える一方で生産年齢人口は減少するため、医療や福祉サービスの負担が現役世代へ重くのしかかることも大きな問題のひとつといえるでしょう。

IT業界における2030年問題 人材への影響は

2030年問題は、IT業界にも大きな影響をおよぼすと予想されています。経済産業省が2019年3月に発表した「IT人材需給に関する調査」によると、2030年には最大で79万人のIT人材が不足する可能性があることが明らかになっています。

これはあくまで、IT需要の伸び率を3〜9%、労働生産性の上昇率を0.7%とした場合の試算です。つまり、IT需要の伸び率がもっとも高く、労働生産性の上昇率がもっとも低い場合の最悪のシナリオを描いたものとされています。それでも、およそ79万人という数字はけっして軽視できるものではありません。

また、ここでいう「IT人材」には、情報サービス業やITサービス・ソフトウェアなどを提供する企業の従業員だけでなく、一般企業の情報システム部門に所属する従業員なども含まれます。したがって、どの業界の企業であっても、2030年問題におけるIT分野人材の確保は急務であることを示唆しているのです。

2030年問題でIT人材の不足がここまで懸念される背景には、IT業界の急成長や生産年齢人口の減少だけでなく、2030年問題によりIT人材の需要が増すとされていることがあげられます。

2030年問題により起こる人材不足は非常に大規模なもので、これを乗り越えていくためには考え方やシステムの変革が必要になると考えられています。ビジネスの現場であれば、働き方改革の推進や、急速に変化・拡大するIT技術を取り入れることによるDX化などが挙げられるでしょう。その結果、AIやビッグデータ、IoTなどの先端技術の需要が急速に拡大し、大量のIT人材が不足すると予想されているのです。

2030年問題に向けて、企業が備えるべきこと

2030年問題を乗り越えるためには、いかにして人材を確保するかが大きなポイントになるといえます。そのために企業が取り組むべきことについて説明します。

退職年齢の引き上げや専門職の再雇用

2013年の高年齢者雇用安定法改定により、定年を60歳から65歳に引き上げる法整備が行われました。2025年4月以降はその経過措置期間が終了するため、① 65歳までの定年引き上げ ② 定年制の廃止 ③ 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)に対応する必要があります。

退職年齢を引き上げたり再雇用したりすることで、これまで企業に貢献してくれた優秀な人材の経験や技術を引き続き活用でき、次世代の育成も期待できるでしょう。同時に、賃金制度や労働条件などの制度整備も必要になります。

多様な働き方に対応できる仕組みづくり

現在働いている従業員を維持するという視点では、多様な働き方に対応できる仕組みづくりも重要なポイントといえます。育児や介護といった家庭の事情により、働く意志はあっても離職を余儀なくされていた人材を活用できれば、企業にとっても人材確保のための手間やコストを省けるメリットが生まれます。

こうした人材を活用するためには、時短勤務やテレワークを導入するなど、時間や場所にとらわれない働き方に対応していく必要があります。多様な働き方に対応した職場は、従業員にとっても安心して働ける環境になるため、離職率を下げる効果も期待できるでしょう。

質の高いIT人材の確保

企業が競争力を維持していくためには、人材の「量」だけでなく「質」を確保していくことも重要です。IT業界は変化、発展がめざましく、毎年のように新しい技術が生まれています。特にAIやビッグデータ、IoTなどの技術はニーズも高く、こうした先端技術に対応できる人材の確保・育成は急務といえるでしょう。

前出の経済産業省のレポートでは、従来型ITシステムの受託開発、保守・運用サービスなどに従事する「従来型IT人材」のほかに、「先端IT人材」という表現が使われています。先端IT人材とは、“AIやビッグデータ、IoT等、第4次産業革命に対応した新しいビジネスの担い手として、付加価値の創出や革新的な効率化等により生産性向上等に寄与できるIT人材”と定義されています。従来型IT人材のニーズはいずれ減少すると見込まれることから、先端IT人材を新しく確保するだけでなく、従来型IT人材を先端IT人材にスキル転換することも重要なポイントといえるでしょう。

“風通しの良い職場”の構築

従業員にとって働きやすい環境を構築することで定着率を向上させ、優秀な人材の確保に取り組んでいくことも重要です。

働きやすい職場環境の一つの特徴として、ITプロジェクトの現場で起こっていること、担当者が思っていることをストレートに発信することができる環境があります。このようにコミュニケーションが活性化され、同僚や上司・部下がお互いにプロジェクトのことを理解し、「どうやったらうまくいくのか」を素直に意見交換できる、意思疎通がしやすい“風通しの良い職場”を作ることが重要です。これにより、従業員は長く勤めたいと思える職場が形成されます。

制度対応と並行して従業員が働きやすい環境を構築しよう

2030年問題はどの業界・企業にとっても避けては通れない問題で、いかにこの問題を乗り越えるかで企業の存続が決まるといっても過言ではありません。そのため、組織は単なる制度対応だけでなく、従業員が働きやすい環境を構築することが求められます。特に、意思疎通がしやすい“風通しの良い職場”を作ることが重要です。

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たとえば、データから問題の兆候が見られた場合は、1on1のヒアリングを通じてメンバーの意見を聞き、早期に適切なアクションを起こすことができます。

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