企業にとって人は財産です。どの業界も人材難のいま、優秀な従業員の離職は会社にとって大きなダメージとなるでしょう。
特にIT業界は、優秀な人材が流動化しやすい環境がそろっているといわれており、常に人材不足に悩まされているのが現状です。優秀な社員を辞めさせないためにはどう対策をとればよいのか、仕事を辞める人の前兆とあわせて説明します。
IT業界の人材が転職する理由
人材の流出を防ぐ方法について考える前に、まずは転職するのは何が理由かを考えてみましょう。IT業界の人材が転職する理由で多いのは主に以下の4つです。
スキルアップのため
IT業界は他業種に比べて発展や変化がめざましく、求められる技術は日々進歩しています。ITエンジニアであれば誰もが実感していることですが、日々スキルを磨きつづけていかないと時代の流れに取り残されてしまうという危機感を持って仕事を続けている人がほとんどです。
そのため、業種や現場の都合で使えるプログラミング言語が限られる、ひとつの職場にとどまっていると習得できるスキルの幅が狭まる、といった状況に陥ることがあります。現状ではスキルアップが困難だと感じた場合、転職を考えるケースがあるのです。
キャリアパス実現のため
自分のキャリアパスを実現するために転職を考えるケースもあります。ひと口にIT業界といっても、その職種は専門性によって細かく分かれています。例えば、AIエンジニアやITコンサルタントを目指したくても、現在の職場にその職位が存在していなければ実務経験を積むことはできません。社内にその職位があっても、現任者がいて募集がないケースもあります。
こうした場合、自社の職位が空く(または新たにつくられる)まで待つより、転職して他社でチャンスを求めるほうが、自分の思い描くキャリアの近道になると考えるのです。
待遇改善のため
待遇を良くするためというのも、よく聞く転職理由のひとつです。IT業界では、年功序列だけではなく、本人のスキルや実績により大きく評価が変わることも少なくありません。そのため、現在の評価が正当ではないと感じた場合、転職に踏みきりやすい傾向にあります。
またIT業界では、システムの開発規模が大きくなるほど業務を下請けへと発注する構造が深まり、多重下請け構造になる傾向があります。下請けのなかでも、1次請けから2次請けへ、2次請けから3次請けへとより下にいくほど待遇も低下していきます。そのため、下請け企業に所属しているITエンジニアが、待遇改善を求めて転職活動の機会をうかがっているのが一般的なのです。
固定されたお客様やプロジェクトから抜けられないため
プロジェクト制が主流のIT業界では、他の業種と比べて企業内での異動が少ないケースがあります。転勤や単身赴任がない分良いという人もいれば、同じプロジェクトに長期間(例えば5年間)携わり続け、自身のキャリアに不安を感じているという人も多いでしょう。特に優秀なエンジニアほど、上司に異動願いを出しても「このお客様は重要で、〇〇さんを抜いては困ると言われている」といった理由で異動できない場合もあります。その結果、転職をされてしまうということです。
IT業界は人材が流出しやすい?
一般的に、IT業界は他業界に比べて転職が多いといわれています。
その理由としてまずあげられるのは、IT業界がもともと実力主義の業界であるという点です。IT業界のなかにはさまざまな企業や分野があり、必要とされるスキルもさまざまです。ひとつの企業にずっととどまっていては取得できるスキルも限定的になり、将来的に時代の流れに取り残されてしまうリスクもあります。そのため、キャリアアップのために転職し、さまざまなスキルを身につけたいと考える人が多い傾向にあります。
特にITエンジニアは転職の際に、どのような言語を使えるか、どのような現場を経験してきているかを問われるケースが多く、実力やスキルがあればそれだけ多くの企業から声がかかりやすくなります。より専門性の高いスキルを身につけることで転職市場での自分の価値を高め、より良い条件の企業を探そうとする意欲も強くなるのです。
また、特に近年はIT技術の発展がめざましく、IT人材はどの企業でも不足傾向にあります。どの企業でもIT人材の確保は急務となっており、エンジニアにとっては売り手市場が続いていることも、IT業界の転職が多い理由としてあげられます。
IT業界における離職率の現状、離職率が高くなる原因、離職率改善の方法についての詳細は、以下記事もご参照ください。“高くなると会社に悪い影響をおよぼすIT業界のエンジニアの離職率。その原因と改善方法”
仕事を辞める人の3つの前兆
仕事を辞めたいと考えている人を見分けるためには、どうすればよいのでしょうか。退職を考えている人が見せる一般的な前兆を紹介します。
休みや早退が急に増える
休みや早退が急に増えた場合は、モチベーションが低下していると考えがちです。しかし、それだけではなく、現状より待遇の良い環境を求めて転職活動やスキルアップのための社外講座を受講しており、そのために有給を活用しているケースもあります。この場合、モチベーションがむしろ高く優秀な従業員が離脱しようとしていることになるため、前兆を見つけたら早めの対処が必要です。
肯定的な意見しか言わなくなる
これまで積極的に改善案を出したり、忌憚(きたん)のない意見を出していた従業員が、急に発言しなくなったり、肯定的な意見しか言わなくなったりするのも要注意です。この場合、言ってもどうせ改善されないとあきらめていると考えられ、自分の本音を隠して円満に退職しようとしているとも推測できます。また同じ理由から、これまで愚痴や不満の多かった従業員が急に何も言わなくなるのも危険な兆候といえるでしょう。
付き合いが悪くなる
同僚とのランチや飲み会に参加しなかったり、エンジニアの勉強会に参加しなかったりするなど、急に付き合いが悪くなるのも仕事を辞める人に見られる兆候のひとつです。この場合、人間関係が悪化していることも考えられますが、辞める会社の人と人間関係を築く必要はないと考えている可能性もあるため注意が必要です。もともと人付き合いの苦手な人もいますが、これまで付き合いがよかった人が急に消極的になった場合は、対応を検討する必要があるでしょう。
突然の退職を避けるために上司がすべきこと
従業員の突然の離職は、企業にとって大きなダメージになります。こうした事態を避けるために、上司が気をつけることは以下のような点です。
労働条件、福利厚生の見直し
従業員の離職を防ぐためには、まずはなによりも、本人の働きを正当に評価することが大切です。自分のスキルを自発的に磨いたり、積極的に改善案を提案してくれたりする優秀な社員は、自分の働きが正当に評価されることにもこだわります。どれだけ職場に貢献しても評価が変わらなければ、モチベーションは低下し転職が頭をよぎることになるでしょう。
特に、ITエンジニアは休日出勤や残業が多くなりやすく、労働環境の悪さに不満を感じている従業員も少なくありません。給与や福利厚生などの労働条件がしっかりと整備されていれば、この職場で長く働きたいという動機づけにもなります。
部下の本音を聞けるコミュニケーションの改善
前述のように、IT業界ではスキルアップやキャリアパス形成のために転職を考える人も多く、この場合は労働条件の見直しだけでは転職を防げないこともあります。こうしたケースに対応するためには、日ごろから部下とコミュニケーションをとり、考えていることをしっかりと把握することが重要です。
また、日々の業務については、部下が常に本音を言える環境作りが大切です。例えば、部下が担当しているプロジェクトで「現時点では要件が固まらず、このまま開発を進めるとテストフェーズあたりで炎上するかもしれない」と考えている場合、それをすぐに発言できる環境が必要です。上司は部下の意見を即座に受け止め、プロジェクト運営の改善に取り組む必要があります。こうした日々の活動やコミュニケーションが部下との信頼関係を築き、離職を防止する一助となります。
離職防止には普段から部下の本音を聞けるような仕組みを
仕事を本気で辞めたいと思っている人は、自分の本音や本当の退職理由を隠して円満に退職できるよう振る舞う傾向にあります。そのため、普段から気軽にコミュニケーションをとれる環境を構築し、部下の本音や、参画しているプロジェクトの現状を正しく把握することが重要です。
部下の本音やプロジェクトの現状把握には、「PJ Insight」の活用がおすすめです。
PJ Insightは、毎週1回、プロジェクトメンバーに対して、プロジェクトの品質、納期、コストやコミュニケーションなどの項目について、5段階評価で回答するアンケートを実施します。その収集結果を時系列データにして、プロジェクトの状況や炎上の兆候を可視化します。
例えば、部下が明確な炎上の兆候を上司に伝えられない場合でも、データの推移からプロジェクトが低迷傾向にあるなど察知することが可能です。
データから炎上の兆候や課題が見られた場合は、1on1などでヒアリングを行い、部下が抱える課題や不満を早期に把握し、適切な対策を講じることができます。
PJ Insightを活用して部下とのコミュニケーションを促進し、意見を尊重する環境を築くことで、部下が本音を話しやすくなり、問題や不満を解決する機会が増えるでしょう。
PJ Insightは、アンケート、プロジェクトの現状把握、炎上リスクの早期解決のサイクルを繰り返し、プロジェクトの状況を継続的に改善する、プロジェクトのヘルスチェックツールです。
無料で使えるフリープランをご用意していますので、ぜひこの機会にPJ Insightの導入をご検討ください。