どんなに優秀な人材を集めても、労働環境や企業風土によって組織そのものが腐敗することもあります。プロジェクト型の職場においては「ダメなプロジェクト」は従業員に悪影響をおよぼすだけでなく、職場そのものを崩壊させるリスクを抱えています。ダメなプロジェクトの特徴やその悪影響、改善するために取り組みたいことをまとめました。
「ダメなプロジェクト」とはどのような状態か?
「ダメなプロジェクト」とは、具体的にどのような状態をいうのでしょうか。「ダメ」という言葉にはさまざま解釈が考えられますが、企業組織であることを踏まえると、業務を遂行するための集団として機能しなくなった状態が、ダメなプロジェクトの定義のひとつといえるでしょう。ダメなプロジェクトには、具体的に以下のような特徴があると考えられます。
労働時間が長く職場環境が劣悪
ダメなプロジェクトによく見られる特徴としては、まず、メンバー一人ひとりが抱える業務量が多く、長時間残業や休日出勤などが常態化していることが挙げられます。プロジェクトが抱える業務量は常に一定ではなく、時期によって忙しくなるのは必ずしも悪いことではありません。しかし、メンバーが抱えきれないほどの業務量が常態化している場合は、正常なプロジェクトとはいえないでしょう。
また、単純に業務量が多いだけでなく、個々のメンバーの能力やスキルに合わせて業務が割り当てられていないのも、ダメなプロジェクトの特徴といえます。メンバーは常に過重労働の状態にあるため、疲労とストレスのなかで業務を遂行することを強いられます。その結果、健康を損なったり、精神的に疲弊してうつになったりするなどのリスクを抱えることになるのです。
こうした労働環境では、当然ながらメンバーのモチベーションが上がらず、業務効率が低下します。業務効率が低下しているのにもかかわらず、抱えきれないほどの業務量を強いられれば、仕事はどんどん回らなくなり、やがてプロジェクトが崩壊することになるでしょう。
プロジェクト内の風通しや雰囲気が悪い
プロジェクト内の風通しの悪さやメンバー同士の対立により人間関係が悪化しているのも、ダメなプロジェクトによく見られる特徴です。業務量が多く、長時間残業や休日出勤などが常態化している状況では、同僚を気遣う余裕はありません。その結果、仕事を押しつけ合ったり、同僚の仕事に対する不満がたまったりして、メンバー同士の対立が生まれます。また、こうした状況を放置する会社に対しても不信感を抱き、常に負の感情を抱えたまま仕事を続けることになります。
仕事を続けていると、ときには納得できないことやうまくいかないこともあります。従業員が多少の不満を抱えるのは珍しいことではありません。しかし、負の感情が社内にまん延し、常に従業員が対立したり、会社に不信感を抱いたりしているようでは、互いに連携して業務を遂行することは難しいでしょう。会社の組織力は失われており、立て直すことも簡単ではない状態といえます。
仕事に対する責任感がない
メンバーが仕事に対する責任感がないのも、ダメなプロジェクトの特徴といえます。そもそも長時間労働で従に余裕がなく、仕事をこなすのに精一杯であれば、業務に対して責任感を持てといっても無理な話でしょう。
また、業務過多により余裕がないだけでなく、業務における責任の所在があいまいなのも、ダメなプロジェクトによく見られる特徴です。問題やトラブルが起こっても誰がその責任をとるのかが明確でなく、上司もトラブル対応を部下に押しつけるような状態では、責任感を持って仕事をする従業員は生まれません。
責任感のない仕事を続ける従業員は、クライアントとの間にトラブルが起こっても、言い逃れをしたり問題を放置したりするようになり、企業はさらに大きなリスクを抱えることになります。
良いプロジェクトとは
一方で、ダメなプロジェクトの反対、いわゆる「良いプロジェクト」とはどのようなプロジェクトのことをいうのでしょうか。簡単に考えると、先に述べたダメなプロジェクトの特徴にあてはまらないプロジェクトが該当すると考えられます。
アメリカの経営学者であり、同時に経営者として電話会社の社長を務めていたチェスター・アーヴィング・バーナード氏は、1938年に、組織が成立するためには以下の3つの要素が必要であると提唱しました。
・協働の意欲
・情報の共有
・組織の目的
それぞれ、具体的に見ていきましょう。
協働の意欲:職場環境が良好でメンバー同士に協力の意志がある
プロジェクトが業務を遂行するための集団として機能し、良い組織であるためには、まずメンバーである従業員同士が協力し合う意志があることが重要です。ひとりの人間ができる仕事には限界がありますが、従業員が協力し合い一丸となって課題に立ち向かうことができれば、大きな仕事を成し遂げられるでしょう。力を合わせれば大きな仕事ができるという意識を従業員が共有できれば、仕事へのモチベーションも上がり、組織に貢献しようという意識がさらに強くなるという好循環も期待できます。
メンバーが互いに協力し合い、プロジェクトに貢献しようという意識を持たせるためには、従業員自身が企業から大切にされていると感じられるような環境づくりが重要です。十分な教育もなく自分の能力を超える仕事を押しつけられたり、抱えきれないほどの業務を強いられたりする状況では、同僚と協力しようという意識は生まれません。給与や役職といった物質的な報酬だけでなく、職場や同僚との信頼関係が保てるような環境を用意して、初めて協働の意欲が生まれるのです。
情報の共有:社内の雰囲気が良好で円滑なコミュニケーションがとれる
メンバー同士が互いに協働し、プロジェクトとして大きな課題に立ち向かっていくためには、円滑なコミュニケーションが重要です。プロジェクトは大きくなればなるほどメンバーも多くなり、それに合わせて意思疎通は難しくなります。リーダーがひとつの決定を下しても、プロジェクト内の人間関係が悪く従業員同士が対立しているような状態では、メンバーが一丸となって組織的に動くことは難しいでしょう。会社が業務を遂行するための集団として機能するためには、上司と部下、同僚同士のコミュニケーションが円滑に行われる必要があります。
コミュニケーションを円滑にするためには、ただ情報伝達のための仕組みを整えるだけでなく、互いに忌憚(きたん)のない意見を言い合ったり、対立せずに相手の意見を認め合えたりするような雰囲気づくりが重要です。従業員同士が日常的にコミュニケーションをとり、普段から信頼関係を築けているようなプロジェクトは、良いプロジェクトといえるでしょう。
プロジェクトの目的:メンバーが責任感を持って仕事に取り組み、共通の目的がある
プロジェクトの目的とは、メンバーが共通して持っている認識やゴールを指し、企業組織の場合は経営理念やミッションなどが該当します。経営理念やミッションは多くの企業が掲げていますが、単なるスローガンのように扱われ形骸化していることも少なくありません。しかし、プロジェクトの目的がメンバー一人ひとりにまで浸透していることは、プロジェクトがひとつの方向に進んでいくうえで大きな武器となります。
メンバー一人ひとりがプロジェクトの目的を共有していると、目の前の業務を自分のこととしてとらえ、責任感を持って仕事に取り組めるようになります。ただ品質を上げなさいと上司から指示されるよりも、「品質の向上によってこれまでにない新しい価値を生みだす」といった理念があるほうが、「そのために何ができるか」という視点で考えることができます。プロジェクトが良い組織であるためには、メンバーが共通の目的を持つことが重要なのです。
プロジェクトがダメになる危険な予兆
ダメなプロジェクトは、業務を遂行するための集団として機能しなくなっており、組織力が失われてしまった状態にあります。ダメなプロジェクトのまま放置していると、プロジェクトの炎上やメンバーの離職、その結果の業績の悪化や組織崩壊など、企業にさまざまな悪影響をおよぼすことになります。こうした事態に陥らないためには、プロジェクトがダメになる予兆をいち早く発見することが重要です。プロジェクトがダメになる予兆には、具体的に以下のようなものがあります。
優秀な人材の離職
従業員の離職率は、その組織の良しあしを判断する基準のひとつです。長時間残業や休日出勤が常態化していたり、抱えきれないほどの業務量を強いられたりする環境で長く働きたいと考える人はまずいません。自分が働いている職場がダメなプロジェクトだと気付いた従業員は、できる限り早く環境を変えたいと望むでしょう。その結果、ダメなプロジェクトには従業員が定着せず、離職率が上昇することになります。
離職率の上昇が組織にとって危険なのは、採用や教育のためのコストが跳ね上がるだけでなく、優秀な人材ほど早く新しい環境を見つけて離職していくという事実です。業務の遂行能力が高く、大きなプロジェクトを任せられるような優秀な人材は、転職市場での価値も高く、新しい環境を見つけるのにそれほど苦戦することはありません。また、優秀な人材は自分の能力の高さを知っているため、より良い条件で働ける場所、自分の力を十分に生かせる場所を常に求めています。そのため、条件のいい転職先を見つけた場合は、躊躇(ちゅうちょ)なく転職に踏み切ることができるのです。
優秀な人材がいなくなったプロジェクトは、業務がますます回らなくなり、残った人へそのしわ寄せが行きます。その結果、労働環境がさらに悪化し、次第に離職率が上昇するという悪循環に陥ることになります。
プロジェクト内コミュニケーションの悪化
メンバー同士の会話が減ったり、情報伝達がうまくいかなくなったりするなど、プロジェクト内のコミュニケーションが悪化するのも、プロジェクトがダメになる危険な予兆のひとつです。
業務を遂行していくうえでは、メンバーがコミュニケーションをとり合い、互いの業務の進行や状況を把握しておくことが重要です。それによって、トラブルが起きた場合にフォローし合い、全員が一丸となって問題を乗り越えていけます。しかし、ダメなプロジェクトでは、メンバー一人ひとりが目の前の仕事をこなすのに精一杯で、互いを信頼したり思いやったりする余裕がなく、フォローし合うこともできません。その結果、プロジェクトとしての一体感や信頼関係がなくなり、プロジェクト内コミュニケーションが悪化することになるのです。
こうした状態になると、ただメンバー同士の会話が減るだけでなく、小さな情報の伝達もうまくいかなくなり、プロジェクト内の指揮系統にも混乱が生じやすくなります。また、業務上のミスが起こった場合の対応や、コンプライアンス上の違反や不正行為を発見するのも遅れがちになるため、経営に影響を与えるような大きな問題が発生しやすくなります。
生産性の低下
本来、企業ではさまざまな部署や人が連携してビジネスを推進し、組織を成長させていきます。
しかし、ダメなプロジェクトには、自分の役割を果たさない無責任なメンバーや、仕事に対するやる気がないメンバーが多くなり、同僚と協力して何かを発展させたり、新しいものを生み出したりする力は失われています。こうした状態が続くと、従業員は「何を言っても無駄だろう」というネガティブな思考にとらわれ、互いに協力し合ったり前向きな議論を交わしたりすることが難しくなります。その結果、メンバーのモチベーション低下やプロジェクト間の連携の悪化が進行し、組織全体としての生産性が低下してしまうのです。
メンバーの業務進捗のスピードが低下したり、残業が増えたり、また忙しさは変わっていないのにパフォーマンスが落ちたりしていたら、それはプロジェクトがダメになっている危険な兆候である可能性があります。
ダメなプロジェクトにならないための対策
プロジェクトがダメになっていく前には、上述したようなメンバーの離職やコミュニケーションの減少、生産性の低下といった予兆が必ずあるものです。もし自分のプロジェクトでこうした予兆を発見した場合、どうすればいいのでしょうか。プロジェクトのダメ化を防ぐために取り組みたいことをまとめました。
兆候をいち早く発見して対策を打つ
特に長期のプロジェクトでは常に良い状態であることは稀であり、プロジェクトの途中で「ダメなプロジェクト化」してくタイミングが必ずあります。
崩壊しないプロジェクトはそこから改善を行い、崩壊する前に回復しています。改善を行うためには早期にダメなプロジェクト化の兆候を察知する必要があります。
ではその徴候をどうやって知るのか?
プロジェクトの問題は全て現場のメンバーの関わるところで起きています。従って、メンバーが問題の兆候に気づいたらプロジェクト内で共有できる仕組みや、プロジェクトマネージャーや上司に報告できる仕組みが必要です。
問題の兆候を発言するとネガティブな雰囲気になることもあるため、どのようにその情報を吸い上げて対策を打つかは検討が必要です。例えば定期的な上司と部下の間でのOne on Oneミーティングなども良いかもしれません。また、プロジェクト現場の声を吸い上げることに特化したツールを活用することも有効です。
プロジェクトメンバーの満足度にフォーカスした職場環境の構築
メンバーが働きやすい職場環境を構築することも、よりよいプロジェクトをつくるために重要なポイントといえます。環境づくりで重要なのは、給与や福利厚生などの制度を充実させるだけではありません。従業員教育に十分なコストをかける、特定の従業員に負荷が集中しないよう業務量を調整する、個々の従業員の能力やスキルに合わせて業務を割り当てるといったような対策も必要です。一人ひとりが自信を持って働くことができる環境をつくることが大切です。
こうした従業員の働きやすさにフォーカスした職場は、メンバーの満足度だけでなく、定着率も向上させ、優秀な人材を集めやすくなる効果も期待できます。優秀な人材が集まり定着率が向上すれば、組織全体の業績向上にもつながるでしょう。
プロジェクト内の信頼関係を構築
企業がプロジェクトをスムーズに遂行できる集団であるためには、プロジェクト内やチーム内の信頼関係を構築することが大切です。先にも説明したように、信頼関係のないチームは難しい業務を押しつけ合ったり、メンバーが対立したりとさまざまな悪影響をもたらします。信頼関係がしっかりと構築できているチームは、難題に直面しても、一丸となって壁を乗り越えていけるでしょう。
部署内の信頼関係を構築するためには、コミュニケーションを活性化させるのも重要ですが、それだけでなく、メンバーが思ったことを率直に発言できる雰囲気をつくることが大切です。もし、ひとりが業務の改善点を思いついても、リーダーが発言を受け入れず、同僚が理解してくれないような状況では、安心して発言できないでしょう。メンバーが自由に発言できるように、意見を受け入れる姿勢を示すことが大切です。最近ではメンバー個人のメンタルの状況を把握するためのサーベイ製品というものが多く導入されています。その考え方をプロジェクトとして適用して「プロジェクトのヘルスチェックを毎週行う」といったSaaS製品の導入も進んできています。こういったツールによってメンバーがリスクを負うことなく、信頼関係に基づいて発言しやすくなるカルチャーを醸成していくことが大切です。
「ダメなプロジェクト」防止には現場の見える化から
プロジェクトがいわゆるダメなプロジェクトになってしまうと、いくら優秀な人材を集めても意味はなく、離職率の上昇や生産性の低下、プロジェクト内の人間関係悪化などの負の悪循環に陥ることになります。こうした事態を防ぐためには、まずは、プロジェクト現場の見える化とすぐに意見をいえる環境の醸成から取り組むことが有効です。
「ダメなプロジェクト」の防止対策には、「PJ Insight」の活用がおすすめです。
PJ Insightは、毎週1回、メンバーに対して、プロジェクトの品質、納期、コストやコミュニケーションなどの項目について、5段階評価で回答するアンケートを実施します。その収集結果を時系列データにして、プロジェクトの状況を可視化します。
メンバーが「ダメなプロジェクト」になる兆候をプロジェクトマネージャーやPMOに伝えられない場合でも、データの推移からプロジェクトが低迷傾向にあるなど察知することが可能です。
データから「ダメなプロジェクト」になる兆候が見られた場合は、1on1などでメンバーからヒアリングを行い、課題に対し、早期にアクションを起こすことができます。
また、PMOはプロジェクトマネージャーの報告だけでなく、現場のリアルな声も把握することができ、適切な支援を行うことが可能です。
PJ Insightを活用してプロジェクト現場の見える化に加え、メンバーから本音を聞くためにも、メンバーがリスクを負うことなく、信頼関係に基づいて発言できるカルチャーを醸成していくことも大切です。
PJ Insightは、アンケート、プロジェクトの現状把握、課題の早期解決のサイクルを繰り返し、プロジェクトの状況を継続的に改善する、プロジェクトのヘルスチェックツールです。
30日間の無料トライアルをご用意していますので、ぜひこの機会にPJ Insightの導入をご検討ください。