少子高齢化が進む日本では生産年齢人口の減少による労働力不足が問題となっていることから、労働力確保のため積極的に人材の新規獲得を進める企業が増えています。それはIT業界においても同様です。しかし、人材確保を進めても入社後に離職してしまうようでは意味がありません。そのため、離職率を低くおさえることは、人材を新規で獲得することと同じように重要といえます。本稿ではIT業界のエンジニアに焦点を合わせて、離職率の現状から、高くなる原因、離職率改善の方法についてご紹介します。
IT業界における離職率の現状
離職率の現状
厚生労働省が令和2年にまとめた「年雇用動向調査結果の概況」によると、産業別離職率は宿泊業・飲食サービス業、サービス業、生活関連サービス業・娯楽業がTOP3となっています。IT業界は情報通信業に分類され、その離職率は10%弱です。離職率TOP3に比べれば少なく、一般的に離職率は10%以下で低いとされているので、それほど高いとはいえません。なお、この数字は業界の平均なので、同じIT業界の中でも離職率が1%以下と低い企業もあれば、10%を大きく超える企業もあります。
ITエンジニアの高い離職率が企業に及ぼす影響
高い離職率は企業にさまざまな悪影響を与えます。IT業界においては、主に次のような悪影響があると考えられます。
人材が不足する
多くの人材が退職することで、単純に労働力不足、人材不足に陥ります。人材が不足すれば、これまでと同じ量の業務をこなせなくなったり、業務の品質が低下したりします。
企業全体の技術力が低下する
人材が定着しないため、時間をかけて優秀なエンジニアを育てることができません。それは同時に企業全体の技術力の低下にもつながります。
人材採用、育成のコストがかかる
人材が定着しないため、何度も新しい人材を採用し、育成するというプロセスを繰り返さなくてはなりません。それにより、採用・育成にかかるコストの上昇につながります。
また企業によっては、退職者のための退職金も発生することになります。
人材を獲得しにくくなる
「離職率が高い企業」という評判が定着することで、求職者が応募を避ける可能性が高くなります。そのため、新しい人材を獲得しにくくなります。
生産性が低下する
エンジニアの入れ替わりが多いと、退職時にしっかり引き継ぎを行うことができません。そのため企業内が混乱し、業務をスムーズに遂行できなくなってしまいます。
またエンジニアが不足することで一人当たりの負担が増加することは避けられません。それは業務の質の低下にもつながります。
販売機会の損失が起こりうる
人材が不足すること、また、それに比例して優秀な人材が減ることで、退職者がいなければ獲得できたはずの案件を獲得できなくなる可能性があります。そういった販売機会の損失が重なることで、企業全体の利益低下につながります。
残ったエンジニアのモチベーションが低下する
退職者が多くなれば、どうしても残ったエンジニアの業務は多くなり、負担が増加します。また、退職者によって職場の良くないところが可視化されることもあるでしょう。残ったエンジニア間や管理職との人間関係も悪化します。そのため、残ったエンジニアのモチベーションが低下し、さらなる生産性低下や退職者増加といった悪循環につながることもあります。
企業のイメージダウン
離職率が高い企業はスムーズに事業を行いにくくなるため、取引先の信頼も低下します。そこから企業全体の信頼度やイメージが低下するでしょう。そうなれば、現在の顧客との取引停止や、新規顧客を獲得しにくくなることも考えられます。
IT業界でエンジニアが離職する原因
ITエンジニアの離職の原因は大きく3つに分けることができます。一つは、報酬アップのためです。2つ目はスキルアップしたり新しい領域へのチャレンジです。3つ目は現状プロジェクトへの不満です。
それでは、離職する原因について以下に詳しく見ていきましょう。
報酬のアップ
IT業界は大企業から中小企業、歴史のある企業から新興系の企業、SI企業からネット企業など、様々な数多くの企業がから成っています。また中途採用も一般的であること、ITエンジニア売り手市場であることから、現在の報酬よりも高い報酬をオファーしてくれる企業が数多く存在することから、報酬アップのために離職をするエンジニアは多く出てしまう現状があります。
スキルアップの願望
IT人材はスキルアップを求めて離職を考えることがあります。スキルアップのために費やす時間を確保できない、つまり、スキルを上げづらい環境と判断されれば、離職される可能性があるので注意する必要があります。判断材料の一例は下記の通りです。
- 業務内容が固定されている
- より高度なエンジニア課題にチャレンジする機会が与えられない
- リーダー(マネジメント)経験を積む機会がない
- 業務量が多すぎることからスキルアップのために費やす時間を確保できない
エンジニアが得られる報酬とITスキル(専門分野の知識・問題解決能力・コミュニケーション能力)レベルには強い相関があります。前述のように、報酬面から見ても、エンジニアにとってスキルアップは重要なのです。
現状プロジェクトへの不満
ITプロジェクトは「炎上」といって、予定通りに進まず、週末や夜間に出勤したり、長時間働いたり、意図しない作業をせざるを得ない状況が起きやすい特徴があります。一度プロジェクトが炎上してしまうと、途中で抜けることができず、また、炎上を鎮めるために全力を尽くしてしまうと、プロジェクトが終了した後もそのプロジェクトから離れることができなくなってしまいます。お客様や社内から信頼されるのは良いことですが、スキルアップや他の経験をしたいと上司に異動を申し出ても受け入れられないことが多いです。特に、その顧客が企業にとって重要な顧客である場合はなおさらです。その結果、「転職するしかない」という選択を余儀なくされ、優秀なエンジニアが離職してしまうのです。
離職率を改善するための働きやすい環境づくり
高い離職率は企業にとって不利益にしかなりません。そのため、離職率は可能な限り低くしたいですが、改善のためにはどのようなことをするべきでしょうか。報酬に関しては人事制度に関わることなので、ここでは割愛し、スキルアップと現状プロジェクトへの不満についての改善策を説明します。
スキルアップのしやすい環境づくり
スキルアップのためには今の職場が良い環境だと感じてもらわなくてはいけません。そのためにスキルアップがしやすい環境づくりが必要です。例えば、以下のようなものがあります。
- 社内教育の場や外部講習受講、図書購入の推奨
- 上記費用の負担
- 面談を通じ、エンジニア本人が目指すエンジニア像と、企業側が期待するエンジニア像をすり合わせ、スキルアップの方向性を共有する
- 本人の意向やスキルを考慮し、任せる業務を適切に選定する
- IoT、AIなど、新しい技術領域への挑戦に対する企業/部門方針の積極発信やプロジェクト化、検討会などの実施
特に優秀なエンジニアのための環境整備
特に優秀なトップエンジニアの離職は、技術力の流出のみならず周りのエンジニアのモチベーションにも影響をあたえます。新しい技術領域を優先的にアサインし、その優秀な技術力を活かした業務に従事してもらいましょう。業務に物足りなさを感じでしまえば、自身の技術力に見合った業務ができる環境を求め、離職してしまう可能性があります。また、優秀だからと業務を任せすぎてしまうことも禁物です。業務が多すぎることから自身の学習時間が取れないと不満を抱く可能性もあるからです。
炎上を未然に防ぐ
プロジェクトが炎上してしまうと、何も良いことはありません。企業としては離職だけでなく多くの犠牲を払うことになってしまいます。従って、プロジェクトが炎上しないようにすることが何よりも大切です。特に優秀なトップエンジニアは炎上した際には頼りになるため、炎上プロジェクトから離れることができなくなってしまいます。さらに、数多くの経験から「炎上が起きそうな兆候を予測する能力」にも優れています。そのような炎上の兆候や発生の可能性を現場から早期に報告を受け、迅速な対処をすることが重要です。その結果、やりがいのあるプロジェクトとなり、離職を防ぐことができます。
現場の生の声を言える・聞ける環境を作る
炎上の兆候は、どのプロジェクトでも感じているメンバーがいるはずです。そのような場合に声を上げることができ、それに応える組織としての仕組みづくりやカルチャーが重要です。結果として、こうした仕組みが整っている企業では、現場のコミュニケーションも優れており、離職が少ない傾向があります。また、プロジェクトの炎上を未然に防ぐためには、現場の声を受け止め、PMやPMOが対策を講じることができるツールを活用することも離職防止につながるでしょう。
働きやすい環境構築のためには、プロジェクト現場の現状把握から
離職率の高さには、企業への不満だけでなく、結婚や家庭環境の変化などのプライベートな理由も影響しています。完全に離職率をゼロにすることは困難ですが、極端に高い離職率は企業にとって悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、離職率を改善するためには働きやすい職場環境を整えることが不可欠です。
まずは、プロジェクト現場の状況や、メンバーがプロジェクトに対してどのような意見を持っているのか、現状を明確にする必要があります。
そのためには、「PJ Insight」の活用がおすすめです。
PJ Insightは、毎週1回、メンバーに対して、プロジェクトの品質、納期、コストやコミュニケーションなどの項目について、5段階評価で回答するアンケートを実施します。その収集結果を時系列データにして、プロジェクトの状況や炎上の兆候を可視化します。
例えば、メンバーが明確な炎上の兆候をプロジェクトマネージャーやPMに伝えられない場合でも、データの推移からプロジェクトが低迷傾向にあるなど察知することが可能です。
データから炎上の兆候が見られた場合は、1on1などでメンバーからヒアリングを行い、炎上リスクに対し、早期にアクションを起こすことができます。
また、PMOはプロジェクトマネージャーの報告だけでなく、現場のリアルな声も把握することができ、適切な支援を行うことが可能です。
PJ Insightの活用により、プロジェクト現場の現状把握と改善策の実施を通じて、働きやすい環境づくりを目指しましょう。従業員が働きやすい環境を実現することで、企業の競争力と持続的な成長を確保することができます。
PJ Insightは、アンケート、プロジェクトの現状把握、炎上リスクの早期解決のサイクルを繰り返し、プロジェクトの状況を継続的に改善する、プロジェクトのヘルスチェックツールです。
無料で使えるフリープランをご用意していますので、ぜひこの機会にPJ Insightの導入をご検討ください。