日本企業にとって、少子高齢化による人材不足は近年、深刻な問題となっています。そこで、人材の確保のためにも、従業員満足度を重視する企業が増えてきました。さらに、コロナ禍によって働き方が多様化し、さまざまな環境で働く人たちに対してのケアも求められています。従業員満足度向上によるメリットと取り組み方を、特に人材不足であるエンジニアへの対応も交えて説明します。

従業員満足度とは

従業員満足度とは、その名の通り、企業や組織に属する従業員がどれくらい自社に満足しているかを示す指標です。英語ではEmployee Satisfaction、表記の頭文字を取ってESと呼ばれることもあります。

一般的には、定期的に従業員に向けてアンケートを実施し、結果を集計・分析しています。その内容は社によってさまざまですが、主に企業の経営理念や仕事内容、職場環境、社内の人間関係、働きがい、福利厚生、給与などの要素が計測されているようです。

よく似た考え方として、「従業員エンゲージメント」があります。従業員が自発的に企業貢献の意欲を示すもで、これは従業員満足度を高めた延長線上にあります。そこで、まずは従業員満足度を高めることから始めていきましょう。

日本の企業はかつて、どちらかといえば、顧客満足度に着目しがちでした。しかし近年、従業員満足度の向上が、企業の生産性や業績に好影響を与えるというデータが見られるようになってきました。

厚生労働省の調査では、『「従業員と顧客満足度の両方を重視する」という経営方針を持つ企業は、

「顧客満足度のみを重視する」という企業と比べ、売上高営業利益率、売上高ともに「増加傾向にある」とする割合が高くなっています』 という結果が報告されています。

出典:厚生労働省 従業員の職場定着など、雇用管理面でお困りの事業主の皆さまへ

  従業員満足度を意識した取り組みを継続的に行うことで、人材を確保しながら業績向上が期待できるのです。

従業員満足度を構成する4つの要素

従業員満足度を向上させるには、従業員満足度を構成する要素の把握が欠かせません。主な要素を4つ解説します。

 

企業の理念・ビジョン

企業が掲げる理念やビジョンへの理解・共感がなされているかは、従業員満足度を向上させるうえで欠かせない要素です。従業員が同じゴールを共有していれば、疑問を感じることなく進んでいくことができ、ストレスや不満を感じることも少なくなります。

評価制度

自らの仕事が適切に評価されているかどうかも従業員満足度に大きく影響する要素です。評価制度が曖昧であれば、従業員間で不公平感が生まれ、満足度も下がってしまうでしょう。

人間関係

職場内での人間関係が良好でないと、心理的安全性の低下につながり、自身の力を最大限に発揮しづらくなります。上司や同僚、部下としっかりとコミュニケーションが取れ、良好な人間関係が築けているかも重要な要素の一つです。

職場環境

長時間労働の強要がある、あるいは多様な働き方に対応できていないといった環境下では、従業員満足度の向上は困難です。例えば育児や介護をする従業員に対する多様な働き方の実現を後押しする制度、障害者や外国人労働者も働きやすいユニバーサルデザインが取り入れられたオフィスなど、職場環境の充実も欠かせません。

従業員満足度向上で得られるメリットは?

従業員満足度によって得られるメリットには、どのようなものがあるでしょうか。大きく3つに分けて紹介していきましょう。

従業員のモチベーションや生産性の向上

社に対する満足度が高い従業員は、モチベーション高く主体的に働きます。高い集中力とパフォーマンスが期待でき、業務の無駄も省いていくため、生産性の向上につながるという好循環になる傾向にあります。 また、満足度の高い従業員の多い組織はコミュニケーションが円滑で活発化しやすく、効果的な連携による質の高い仕事を見込めます。従業員自身も仕事の達成感が得られ、成長意欲が高まっていくでしょう。

従業員の定着率上がり、採用コスト削減

従業員満足度が高い企業は、従業員が「長く働き続けたい」と感じる職場環境や仕事のやりがい、企業文化が整っているため、人材が定着しやすい傾向にあります。少子高齢化による人材不足が叫ばれる昨今、優秀な人材の流出を防ぐことは企業にとって大きなメリットの1つです。

従業員が長きにわたって生き生きと働く企業は、求職者から「この会社なら、働きやすそう」と好印象を持たれるでしょう。求職者にとって、離職率の低さは職種や収入などとともに、就職・転職先を見極める大切な要素です。企業の良いイメージが、新たな優秀な人材の確保につながる可能性もあります。 また、人材の採用活動には大きなコストがかかります。そうして選んだ人材も数年で退社されてしまうと、人材教育費が負担となります。人材の定着でこれらを最小限に抑えられることによって、事業へより効率よく投資できるようになるでしょう。

顧客満足度の向上

従業員満足度と、商品やサービスに対する顧客の満足度を表わす顧客満足度は、密接な関係にあります。というのも、商品もサービスも提供するのは従業員であり、その仕事ぶりが顧客満足度に反映されるからです。

自社への満足度が高い従業員は、前述のようにモチベーション高く積極的に仕事をします。自社の商品やサービスへの理解を深める努力もするでしょう。その結果、質の高い仕事が期待でき、顧客の満足度が高い商品やサービス提供につながっていきます。 インターネットやSNS社会の今日では、情報は良くも悪くも瞬時に広がっていきます。例えば、自社商品やサービスへの質問に対してすぐ的確に答える知識豊富な従業員や、親身になって顧客対応する従業員に、安心感や好感を持つ人は多いでしょう。満足した顧客からの書き込みや口コミ、紹介などによって、新規の顧客やリピーターの獲得、ひいては業績向上も期待出来るでしょう。

従業員満足度の調査方法は?

従業員満足度を向上させるには、まずは現時点の従業員満足度を知ることが大切です。従業員満足度の調査方法について、順を追って解説します。

準備

まずは従業員満足度の調査を実施する目的を明確にしたうえで、質問項目の設計を行います。基本的には、先に説明した従業員満足度を構成する要素をもとに、質問を作成していきます。

また、記名にするのか無記名で行うのか、アンケートは紙ベースかWebベースか、システムを活用するか手作業で行うかなど、基本的なルールの策定も必要です。

実施

従業員満足度は、できるだけ多くの回答を集めないと実施する意味がありません。回収率を上げるには、事前に説明会を行う、回答期限を設定し期日が近づいたらリマインドメールを流す、などで回答を促します。また、アンケート結果で得た課題は解決策を提示して成果を公開することは、以降の回収率を高めるうえで有効です。

集計・分析

アンケートを回収したら、集計・分析を行います。従業員満足度の分析は、単純分析、クロス集計、前回調査時との比較などで行うのが一般的です。

改善

準備・実施・集計・分析までを終えたら、分析結果から課題点を抽出し、改善策の立案、実施を行います。そして一定期間を置き、改めて課題点が改善されたかを含め従業員満足度調査を実施するサイクルを繰り返し、満足度向上を目指します。

従業員満足度を上げる取り組みとは

従業員の満足度は、複合的な要素からなります。自社にとって必要性が感じられる事柄に対して、しっかりと取り組んでいきましょう。

共感できる社のビジョンを提示

企業や組織の規模が大きくなるほど、社の方向性が従業員に伝わりづらくなるものです。企業は経営方針やビジョンなどをきちんと従業員1人ひとりに提示していくことが大切です。ビジョンを共有することで一体感が生まれ、企業の方向性に共感すれば、愛社精神も高まっていくようです。

組織や企業の明確な目標を具体的な形にすると、従業員に伝わりやすいと考えられます。例えば、経営理念を記したボードを各部署の目立つ位置に掲げたり、カード状のものに印刷して全従業員に配布したりする方法があります。 企業の目標を、部署やチームの目標にまで落とし込んでいけば、個々の「すべきこと」も評価基準も明確になっていくでしょう。従業員が、自社の大きなビジョンを担う1人という意識を持つことで、モチベーションもより高まると考えられます。

職場環境の調整

好きな職種であったとしても、職場の環境によってその満足度は大きく変わってきます。職場環境を整える取り組みは、従業員満足度の向上や離職率の改善のために、重要なことと考えられます。

業務において、あいまいな目標や役割分担、評価、報酬基準は、従業員の不安や混乱を招きかねません。例えば、数値化・具体化した目標の提示や、誰もが参加できる社内コンペの実施などのシステムを導入することで、従業員のモチベーションが向上し、業務効率を高めることができます。年齢を基準にした年功評価やジェンダー不平等な評価制度があれば、見直しを検討しましょう。

風通しの良い職場を目指し、コミュニケーションを活性化させる環境づくりも大切です。部署を超えた交流によって新たな考えや新鮮なアイディアが生まれることもあります。社内にフリースペースを設置し、さまざまな部署の人たちとコミュニケーションをとる機会を作ることも一案でしょう。なかには、社員参加のイベントや部活動など社外活動のための補助金を出す企業もあるようです。

社内やデスク周辺を整えることも大切な職場環境の整備です。机や棚などの整理整頓が行き届いた職場では、書類が見つからないといった状況になることは少なくなるでしょう。仕事の効率が上がり、満足度にもつながると考えられます。

福利厚生の充実

福利厚生の充実は、従業員にとって分かりやすい利益であり、満足度向上に効果的な取り組みとされています。法律で定められた福利厚生はもちろんのこと、企業が独自に決める法定外福利厚生をどのようなものにしていくかによって、従業員の満足度は変わってくるようです。

法廷外福利厚生のなかでも、住宅・家賃補助、食堂・昼食補助など衣食住にかかわる福利厚生の充実は幅広い層の満足度を高めているようです。例えば、従業員食堂やカフェだけでなく、オフィスで無料ドリンクや軽食を提供する福利厚生があれば、社への満足度がより高まるかもしれません。

近年、企業側においても「身体が資本」という意識が高まりつつあり、診療所やマッサージ整体、法定外の休暇付与など従業員の健康に留意した福利厚生も注目されています。

働き方の幅が広がり、育児や介護をしながら働く人たちも増えつつあります。例えば、託児サービスや介護休暇などの育児や介護支援の拡充といった福利厚生は、「この会社で長く働きたい」と思う一因となる可能性があります。 このように、自身の不調や、育児、介護などさまざまな事情を抱えながら働く人たちのため、制度を整えていきましょう。それぞれの働き方に対応する制度を整えれば、従業員はワークライフバランスを実現でき、自社への満足度にもつながっていきます。

特に人材不足のエンジニアが働きやすくスキルを発揮しやすい環境づくり

なかでも人材不足が叫ばれているエンジニア。海外からの人材も増えています。エンジニアの満足度向上のためには、どのような環境づくりに留意するとよいでしょうか。

新規技術への接触機会

技術は日進月歩の勢いで進んでいます。従業員が新たな技術に触れる機会を設けていきましょう。例えば、勉強会や研修会などを実施することで、従業員のスキルアップを促すとよいでしょう。

ルーティンワークに偏りすぎない仕事の配分

決まった手順で繰り返し行うルーティンワークは、効率的である場合が多いでしょう。しかし、ルーティンワークで同じ仕事ばかりを続けていると、技術やアイディアに広がりが出にくくなる恐れもあります。管理者は仕事内容が偏りすぎないように配分することが大切でしょう。新たな仕事に携わる機会を得たことで、従業員が思わぬ力を発揮するかもしれません。

使いやすいツールの提供

仕事内容や状況に合ったツールを使用することで業務をスムーズに遂行できます。技術の進化に合わせて、ソフトからハードまで最適なツールを従業員に提供することが、業務の効率向上につながっていきます。

同僚、先輩エンジニアとの豊富なコミュニケーションの機会を

「ウイズコロナ」によって、エンジニアも出社だけでなく、リモートワークを織り交ぜるなど多様な働き方が定着しつつあります。

リモートワークにより、人とのコミュニケーションがとりづらくなっているかもしれませんが、今はどこにいても「つながる」ことができる時代です。社内にコミュニケーションツールを導入することで、従業員は同僚や先輩との交流がしやすくなります。

従業員満足度の高さは、優良企業の証

従業員満足度を高めることは、自社の大きな利益としてかえってきます。従業員が定着しモチベーションが上がることでサービスや商品の質が向上、顧客の満足度もアップ。生き生きと働く人たちがいる企業は求職者にとっても魅力的であり、優秀な人材が集まるという好循環が期待できます。エンジニアを含め、多くの分野で人材不足の現在、人は自社の宝です。従業員満足度を向上させ、企業イメージも高めましょう。