IT企業のプロジェクトでよく使われる「プロジェクトの炎上」。この言葉に明確な定義はありませんが、プロジェクトに大きな問題が発生し、円滑な業務遂行が難しくなることを指すのが一般的です。より具体的には、成果物を期限内に納品することが不可能となってしまう状態のことです。プロジェクトが炎上すると、顧客からの信頼を失う状況に陥ってしまうため、企業としては可能な限り炎上を避けなければなりません。プロジェクトを炎上させないためにはどのような方法があるでしょうか。炎上してしまう原因から、対応、防止のポイントまでを紹介します。

プロジェクトの炎上とは

「プロジェクトの炎上」とは、トラブルや内容変更などが生じることで納期に間に合わないことをいい、IT系のプログラム開発で多用される言葉です。炎上というとSNSでの過度な発言や過激な行為、もしくは不特定多数のユーザーからの批判を思い浮かべるかもしれません。しかし「プロジェクトの炎上」はSNSのインターネットコミュニティにおける炎上とは一線を画した、ビジネス上の用語です。

プロジェクトの炎上による弊害

プロジェクトの炎上では、単に納期に間に合わないだけでなく、次のような負の連鎖も引き起こされることが多いでしょう。

  • 予算オーバー

・計画と比較して工数が増えてしまい、大幅な予算オーバーとなる

・人員が圧倒的に不足しているため新たなメンバーを追加して、さらなる予算オーバーとなってしまう

  • メンバーの負荷増大

・残業などが不可欠になるが、負荷増大により作業効率が落ちる。また、それでも納期に間に合う期待が薄いと、モチベーションが低下してさらに作業効率が落ちるという悪循環に陥る

・炎上が避けられない状況から新規メンバーを投入しても、育成時間が必要な場合には増員しても解決しない。それどころか、かえって既存メンバーの負担が増す

つまり、プロジェクトの炎上がもたらすのは、納期に間に合わずに顧客からの信頼を失ってしまうという対外的なデメリットだけではありません。予算オーバーによる事業としての失敗、負荷が大きいことによるメンバーのモチベーション低下、対応策を施しても意味をなさないための無力感など、社内的にも大きなダメージを引き起こしてしまうのです。

プロジェクトが炎上する原因

可能な限り避けたいプロジェクトの炎上は、どうして起こってしまうのでしょうか。3つの原因を紹介するとともに、これらの状況がプロジェクトにもたらす弊害もあわせて見ていきましょう。

  • 要件定義が不十分

最初の段階でプロジェクトの内容を顧客とすり合わせ、それによってプロジェクトマネージャーが要件定義を行います。顧客の要望を十分にヒアリングできていなかったり、意見のすり合わせが不十分だったりすると、要件定義も曖昧になる可能性が高くなります。

そのような場合、プロジェクトが動き出したあとで、仕様追加・変更、プロジェクトそのものの大きな方向転換が生じがちです。そのたびに作業工数の増加とスケジュール変更が起こるでしょう。また、せっかく行った作業が無駄になれば、プロジェクトメンバーのストレス増加につながります。

  • 余裕のないスケジュール

スケジュールが厳しくなる状況には、大きく2つのケースがあります。

まず、個々のタスクにかかる時間の見通しが甘いケースです。スケジュール作成者のスキル不足やメンバーの力量を見誤ることで、タスクごとにかかる時間を正確に把握できない場合です。それによって、本来必要とされる時間よりも短い時間でスケジュールを組むことが起こります。個々のタスクの遅れは小さくとも、積み重なると大きな遅延となるでしょう。

もうひとつが、余裕のないスケジュールを組んでしまうケースです。あとから追加のタスクが生じることはよくあり、プロジェクトには予想外のトラブルもつきものです。余裕がないスケジュールでは、追加のタスクや何らかのトラブルが発生した際に、そのあとのスケジュールが全てずれ込んでしまいます。

さらには、スケジュールが押すと、メンバー全員の余裕がなくなり、作業の非効率化やミスの誘発が懸念されます。

  • 適切な進捗管理が行われない

進捗管理ができていれば、プロジェクトマネージャーやPMO等のマネジメント層はメンバーの状況に応じて早期に調整することが可能です。仮にスケジュールに遅れが生じても、早めに手が打てればリカバリーしやすいものです。しかし、進捗を管理できておらず、問題が大きくなってからではカバーするメンバーの負担も大きくなるでしょう。カバーするメンバー間の不満や対立につながる恐れもあります。

プロジェクトが炎上した際の対応

もしもプロジェクトが炎上してしまったら、少しでも被害を小さくするよう迅速な「火消し」の対応が必要です。そこで、火消しを行う際のマネジメント層の心構えと具体的な対応ステップを紹介します。

マネジメント層の心構え

  • 情報開示

火消しを実際に行うのはメンバーですが、炎上の不安を抱えたままでは作業に集中できません。そのため、現状をメンバーに開示します。対応ステップについても随時共有することで、不安を払しょくします。情報開示を進めることで、今後ミスやトラブルが生じたときに、メンバーがすぐに報告できる土壌を醸成することもできるでしょう。

  • メンバーフォロー

先の見えない状況でモチベーションが低下するメンバーや、炎上に責任を感じて落ち込むメンバーがいるかもしれません。プロジェクトを立て直すためにも、メンバーのメンタル面をフォローし、各メンバーのパフォーマンスを引き上げることは重要です。

  • 冷静な視点

炎上プロジェクトを火消しするには、冷静な対応が不可欠です。落胆や怒りはメンバーを委縮させ、炎上の犯人捜しはしても意味がありません。また、感情的になると、対応ステップのスケジュールも見誤る恐れがあります。もしも、客観的な視点でのスケジュール設計が難しい場合には、メンバーの意見を聞きながら現実的なスケジュール設定を行いましょう。

  • ポジティブさ

原因の特定は大切ですが、過去を振り返って言い訳をしても事態が改善するわけではありません。炎上した事実を認めたうえで、火消しのためにどう動くか、素早い頭の切り替えが求められます。

プロジェクトが炎上した際の対応ステップ

具体的な対応方法を下記に紹介します。炎上の際には、迅速に対応を進めましょう。

  1. 炎上原因の特定

納期が迫っているなかでは「とにかく作業を進めたい」と思いがちですが、最初に行うべきはプロジェクトが炎上している原因を特定することです。原因を特定することで、改善策も立てやすくなります。原因は単独であるとは限らず、複数の要因が絡まり合っていることも多くあります。メンバー間で話し合うことで、多方面から特定を進めましょう。

  • 必要なタスクの洗い出し

プロジェクトが炎上した原因が特定できたら、「火消し」のために必要なタスクを洗い出します。ここで必要なタスクが漏れてしまうと、あとでまたスケジュールに狂いが出るので、漏れなくタスクを洗い出すことが重要です。

全てのタスクを洗い出したら、優先順位を付けます。「火消し」の効果が高いタスクから取り掛かることで、効率的にプロジェクトを進めることができるでしょう。

  • スケジュールの再設計

洗い出したタスクの工数見積もりと割り振りを行い、スケジュールを再設計します。スケジュールが正確に把握できるよう、できるだけタスクは具体的にしておきます。再設計したスケジュールで顧客の合意を得ましょう。

  • 適性を考慮したタスクの振り分け

割り振りの際は、メンバーの特性や経験だけでなく、現時点で抱えるタスクも含めて判断しなければなりません。人員が不足する場合は補充も行います。

プロジェクトの炎上を防ぐポイント

プロジェクトを炎上させないためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。フェーズごとにポイントを紹介します。

プロジェクト初期段階

  • 顧客との丁寧な話し合い

顧客のゴールを理解し、そのために必要なものを明確にします。また、成果物の説明を丁寧に行い「何を完成させるのか」について合意します。

それによって、正確な要件定義が叶い、あとからの仕様追加・変更等を防止できます。

  • 現実的なスケジュールや人員確保

納期優先で無理なスケジュールを組むことは避け、余裕を持たせます。また、当初から人員がギリギリであれば、トラブル時に対応しきれないため、十分な人員を確保します。

  • 過去の失敗事例を生かす

社内で過去に同じように炎上したプロジェクトがないかについて確認し、対策を練ります。社内の失敗事例はメンバーにとってリアルであり、問題の切実さがより伝わるでしょう。

  • 心理的安全性の確保

わからないことや失敗の可能性は誰しもあることをオープンにして、遅れやミスが生じたときにすぐに相談できる体制を作ります。

プロジェクト中

  • チーム内の円滑なコミュニケーション

円滑なコミュニケーションはスムーズな情報共有をもたらします。情報の漏れや抜けがあると、二度手間や確認のための遅滞が生じてしまいます。また、円滑なコミュニケーションはチームワークの強化にもつながります。

  • 進捗状況の把握

万一遅れが生じたときに、早期発見できるようにしなければなりません。マネジメント層は常に状況を把握しておくようにします。

  • メンバーへのこまめなフィードバック

タスクごとにこまめなフィードバックを行います。適切な評価はメンバーのモチベーション維持につながり、フィードバックを通じたスキル向上が期待できます。

  • プロジェクト管理ツールの活用

プロジェクト管理ツールを活用することで、情報共有・可視化を行うことも重要です。マネジメントの助けになるだけでなく、誰もが状況を把握できることで、メンバー同士の自律的な協働も期待できます。

プロジェクト後

  • プロジェクトごとの振り返り

炎上の有無に関わらず、プロジェクトが終わったら検証します。成功材料も反省点も次に生かすことで、社内全体で炎上リスク低減を目指します。

炎上を防止し、プロジェクト管理をサポートするツール PJ Insightとは?

プロジェクトの炎上を避けるためには、現実的なスケジュールを組むことや、プロジェクトの進捗を適切に管理することが大切です。それ以上に大切なこととして、炎上の芽を摘む、つまり小さい炎の段階で対策をとることです。適切な進捗管理や予算管理、スケジュールの計画などを行っても、炎上が起こる可能性をゼロにはできません。したがって、小さい炎の段階で発見し、消火しておけば良いのです。ではどうやって小さい炎を発見するか?それは現場の一担当者に聞くのが一番確実です。

小さな炎、つまりプロジェクトが炎上する兆候は、現場のメンバーがいち早く察知してるものです。しかし、兆候に気づいたとしても、「今言わなくてもいいか」「他のメンバーに迷惑がかかるのではないか」、「自分の評価が下がるのではないか」「言っても聞いてもらえないかな」などの理由から、プロジェクトマネージャーに報告できないことがあります。

また、プロジェクトマネージャーはプロジェクトの状況をプロジェクトオーナーやお客様に対しポジティブに報告しがちです。これは、チームをリードするプロジェクトマネジャーの素養としても物事をポジティブに捉えがちだからです。しかし、これはプロジェクトのリスクを早期に発見し、対処する機会を失うことにつながります。よくできるプロジェクトマネージャーほど陥る落とし穴かもしれません。

PJ Insightは、これらの課題を解決できるツールです。毎週1回、メンバーに対して、プロジェクトの品質、納期、コストやコミュニケーションなどの項目について、5段階評価で回答するアンケートを実施します。その収集結果を時系列データにして、プロジェクトの状況や炎上の兆候を可視化します。

メンバーが明確な炎上の兆候をプロジェクトマネージャーやPMに伝えられない場合でも、データの推移からプロジェクトが低迷傾向にあるなど察知することが可能です。

データから炎上の兆候が見られた場合は、1on1などでメンバーからヒアリングを行い、炎上リスクに対し、早期にアクションを起こすことができます。

また、PMOはプロジェクトマネージャーの報告だけでなく、現場のリアルな声も把握することができ、適切な支援を行うことが可能です。

PJ Insightは、アンケート、プロジェクトの現状把握、炎上リスクの早期解決のサイクルを繰り返し、プロジェクトの状況を継続的に改善する、プロジェクトのヘルスチェックツールです。

30日間の無料トライアルをご用意していますので、ぜひこの機会にPJ Insightの導入をご検討ください。