企業がDXを推進していく上で「プロジェクト」は欠かせません。どういった施策を計画して実行していく上でも「プロジェクト」が組成されるはずです。そのプロジェクトの責任者であり中心となる推進者がプロジェクトマネージャー(PM)です。
プロジェクトの責任者としてPMが担う役割はある程度広く認知されていると思いますが、近年、とくにIT領域でDXプロジェクトに関与するPMは、かつてのPMと比較して求められる役割が変化しつつあります。
本記事では、PMに求められる新たな役割と、その役割を十分に果たせるPMを育成するためのヒントをご紹介します。
PMに求められる役割の変化とは?
以前は「QCDが計画通りであればプロジェクトは成功である」とされてきました。そのため「PMのミッションとはプロジェクトのQ(品質)C(コスト)D(納期)を計画通りに進めることである」との考えが一般的だったといえます。
しかし、DXプロジェクトにおいては成功の定義が変わってきています。
デジタルを活用して変革を成し遂げること目的としたプロジェクトでは、QCDが守られても「新たな価値」を生み出し変革に寄与しなければ成功とは言えないためです。
これはPMが責任を負う範囲がQCDだけにとどまらなくなり、プロジェクトが生み出す「価値の良し悪し」まで責任範囲に加わってきたことを意味しています。
PMに求められる新たな役割とは?
例えば、工場の品質データを分析して品質劣化の予知を行うシステムの開発プロジェクトがあったとします。
要件定義をしっかり行い、開発に入ってからもQCDを守り、予定通りに稼働を開始しました。当初の予算も守ることができました。しかし、システムが要件どおりに動いていても予知の精度が品質管理に新たな価値を生み出すほど高くなかったため、結局誰も使わなくなってしまいました…。
このようなケースでは、プロジェクトの成果として「価値を生み出す」ことができなかった責任は誰にあるのでしょうか? 従来は「価値」に関してはPMの責任ではないと考えられていました。
しかし、最近ではQCDが守られても新たな価値を生み出さないプロジェクトは、PMにも責任の一端があると考えられるケースが増えています。
もし実際に例に挙げた問題が起きてしまったら、次にようにPMの責任を問う声が上がる可能性があります。
「なぜ、要件定義を行っているときに予知精度が低くなる可能性があると言ってくれなかったのか」
「なぜ、まずは予算を抑えてプロトタイプを作り検証する提案をしてくれなかったのか」
比較的シンプルなシステム開発が多かった時代と、新しい技術が次々と登場し、大規模で複雑なシステム開発が増えてきた現代とではPMへの期待値が変化してきているのです。
では、DXの時代のPMに求められる役割はどのように広がっているのでしょう?
現代のPMはどんなスキルを求められるのか?
まず、プロジェクト管理のノウハウと、業務知識・IT知識といったプロジェクトの本質に関係する知識は当然のごとく求められます。
上記の例のように「なぜ、要件定義を行っているときに予知精度が低くなる可能性があると言ってくれなかったのか」と、成果物の価値に関する責任を問われるのであれば、プロジェクトの「管理」という役割だけではなく「作られるモノに対しての知識や知見」が求められます。
そして、「なぜ、まずは予算を抑えてプロトタイプを作り検証する提案をしてくれなかったのか」とまで言われるのであれば、管理以前の領域への関与が期待されていることになります。
例えば、ゴールに向けて逆算して施策を考えるような問題解決能力や分析力、それらを関係者に伝えて合意形成するコミュニケーション能力も必要になってくるでしょう。
また、複雑で、新しい技術を取り入れた不確実な部分が多いプロジェクトの推進をするのであれば、仮にPM自身にとっても未知の領域であっても自信を持ってお客様やプロジェクトメンバーを引っ張っていくようなリーダーシップも必要でしょう。
まとめると、
- 対象プロジェクトに関係する業務知識やIT知識を有している
- リーダーシップがある
- 問題解決能力・問題分析能力がある
- コミュニケーション能力がある
- 品質・コスト・納期に関するプロジェクトマネジメントの基本スキルがある
などが現代のPMへの期待として挙げられます。
こう並べてみるとPMに求められるスキルを完全に満たす人は「スーパービジネスパーソン」ですね。こんな人材は存在しているのでしょうか?
DX時代のPMをどのように育成すべきか
25年ほど前に日本IBM社は「社内の優秀なPM人材には年収3000万円を支給する」という人事制度を作って話題になったことがあります。そう考えると昔から優秀なPMは稀有な存在なのかもしれません。
プロジェクトの数だけ高いスキルを揃えたPM(スーパービジネスパーソン)がいる企業など、おそらくほとんど存在しないでしょう。そうなると、多くのPMが期待値のすべてを満たしてはいないとの前提で、彼らが少しでも幅広いスキルを身につけられるように継続的に育成していくことが必要です。
しかし、先に挙げた要素は研修などを受ければ簡単に身につけられるレベルのスキルではないので、実務を通じて学んでいく必要があります。
プロジェクトを推進しつつPMの育成にも取り組む
実務を通じてPMを育成する方法の一例をご紹介します。
それは「スーパービジネスパーソン」にできるだけ近い人材をPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)に任命し、PMOが個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う立場に入り、実践の中でPMを指導していくという方法です。
こうすることで経験の浅いPMでも適切なタイミングで適切なアドバイスをPMOから受けることができ、成長につながるのではないでしょうか? 即効性はありませんが、地道にこのようなプロセスを続けていくことが結果としてPM育成の近道かもしれません。
PM育成のツールとしての「PJ Insight」
NCDCでは数多くのプロジェクト推進経験から生み出したノウハウをもとに、PMOとPM、そして現場のメンバーを繋ぐプロジェクト可視化SaaS「PJ Insight」を提供しています。

「PJ Insight」を用いると、現場で起きていることをPMが把握し、その内容を踏まえてPMOに定期的にレポートするという取り組みを容易に習慣化できます。
PMOは数々のプロジェクトの状況を一覧し、問題がありそうなプロジェクトを素早く抽出してPMのレポートを読みアドバイスを送ることができます。
経験の浅いPMは定期的にPMOからアドバイスをもらうことで、PMOの知見を活かした改善の工夫に取り組むができますし、改善に取り組んだ結果、現場がどのように変化しているかも簡単にトラッキングすることができます。
こうした実務を通じた経験の積み重ねがPMとしての能力を磨いていくことに繋がります。 高い能力求められるDX時代のPM育成にも役立つツールとして、ぜひ「PJ Insight」をご活用いただければと思います。