組織の存続や成長のためには、その大小に関わらず、土台が強固でなければなりません。組織の土台は、全体で共有される理念や体制、組織を構成するメンバーそれぞれのマインドなど、さまざまな要素で構成されています。また、組織作りにはさまざまな角度から取り組むことが重要となります。本記事では、組織作りのポイントや取り組むべき施策について見ていきましょう。

組織とは~組織の強弱を左右する要素とは?

組織とは「個々のものが何らかの秩序をもって全体を構成すること」(三省堂 新明解国語辞典 第七版より)と定義されています。さまざまな人が集まった状態を「集団」と言いますが、そのなかで目的や決まりごとを共有することで成立するのが組織です。

組織のなかにも強い組織と弱い組織があり、これは組織全体としての一体感や、組織を構成するメンバー個々人の当事者意識やチームワークといった要素に左右されます。

組織作りの目的

組織の目的には「〇〇という分野で利益を上げる」「生活に困っている人を支援する」などがあり、組織ごとに異なります。例えば、会社という組織では利益を上げることを目的とし、組織そのものの存続や成長を目指して活動しています。

組織が掲げている目的達成のためには、確固とした組織を作りあげる必要があります。役割分担や意思決定のフェーズなどの体制構築がこれに当たります。また、現場では日常業務だけではなく、それを円滑に進めるための調整が常に発生します。組織全体の土台や仕組みが整っていないと、調整もうまくいかなくなってしまいます。調整業務がスムーズにいかないと、トラブルの原因となったり、意思決定が滞ったりするなど、組織運営そのものの妨げにもなるでしょう。

組織作りによって得られる成果

組織作りに取り組むことで得られる成果としてまず挙げられるのは、従業員が自律して働く環境が生まれるということでしょう。上司からの指示がなくとも自ら考え自走できるようになるため、組織内に好循環が生まれます。

ここからは、組織作りで得られる具体的な成果の例として3つ紹介します。

業績アップや生産性向上

組織が活性化し、従業員全員が同じ目標に向かって動いている「強い組織」では、従業員は目標達成のために何をすべきかを主体的に考えて行動します。そのため、上司からの指示待ちで受け身な従業員ばかりの組織と異なり、従業員一人ひとりが能力を存分に発揮し、会社の業績アップや生産性向上の成果が期待できるでしょう。従業員それぞれが新規事業のアイデアや改善提案を出し合う雰囲気が生まれるため、更なる事業拡大につながることもあり得ます。

VUCAの時代と呼ばれ、将来の予測が立てづらく変化の激しい現代社会においては、状況変化を迅速に察知して最適な意思決定を行い、柔軟に行動できる組織が求められています。強い組織作りができれば、ビジネスを有利に進めていくことが可能です。

従業員満足度やエンゲージメントの向上

組織に属する従業員のコミュニケーションが円滑で信頼関係が構築できていると、従業員はお互いを尊敬し、問題があれば進んで助け合うことができます。従業員の自発性・積極性が引き出されることで組織に活気が出るため、従業員は組織で働くことに居心地の良さを感じ、従業員満足度やエンゲージメントの向上につながります。この状態になると、従業員の「もっと組織に貢献したい」「成果を出したい」という意欲を生み、さらなる業績アップも見込めます。

なお、従業員満足度については、「従業員満足度を向上させるためには?得られるメリットと取り組み方を解説」をご参照ください。

顧客満足度の向上

組織作りに成功すると従業員一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、自主的により良い商品サービスを提供しようと努力します。また、組織内が明るく活発な雰囲気であればネガティブな感情は起こりにくく、顧客対応のサービスレベルは高品質で安定するため、顧客満足度の向上が期待できるでしょう。

以上のように、組織が活性化し従業員満足度が高い状態は、顧客満足度の向上に寄与し、業績が向上します。業績の向上をきちんと従業員に還元したり労務環境を改善したりすると、従業員満足度は一層向上します。そのようにうまくサイクルが回るようになると、従業員・顧客・組織の「三方良し」の状態を作りあげることができるのです。

強い組織に共通する、基本原則

強い組織には共通して組織づくりの基本原則が当てはまります。まずは、基本原則について見ていきましょう。以下の原則を組織内で成り立たせるようシステムとして構築しておき、メンバー一人ひとりの日常業務のあり方に落とし込めているかが重要なポイントとなります。

その①専門化の原則

組織にはさまざまな部署があります。部署ごとに割り振られた業務に集中することで、効率的に業務を進めることができます。また、組織で活動することによって部署ごとに効率良くノウハウを蓄積し、活用し続けることができます。

この「専門化の原則」自体は部署ごとでの役割分担のことを指しますが、雇用のあり方においても業務の細分化など、組織を構成する各ポジションの専門性を高め、生産性を高めようという動きが見られます。最近では、新型コロナによるテレワークの促進に伴い、従来のジョブローテーションを前提としたメンバーシップ型雇用から、より専門性の高いスペシャリストをその専門分野の範囲で雇用する「ジョブ型雇用」が促進されつつあります。

その②権限責任一致の原則

組織を構成するメンバーにはそれぞれの職務があり、それに合った権限と責任を持たせる必要があります。さまざまなケースがありますが、一例として、販売職の場合で見てみましょう。販売職と一口に言っても商材の発注やディスプレイなどの多岐にわたる業務のなか、それぞれを売り場の誰が担当するかという役割分担に近い話から、見切り品をどの程度まで値下げするかの判断を誰がするのか、といった営業数値に直結するところまで、メンバーの職務ごとに権限と責任の割り当てが発生します。あらかじめ、それぞれの役割に合った権限と責任を持たせ、それを遵守させることで業務が問題なく遂行される状態となります。

その③統制範囲の原則

管理者ひとりに対し、管理が行き届く部下の数は限られています。そのため、管理体制構築の際には、それぞれの管理者が管理できる範囲を加味する必要があります。

人数の多い部署についても、トップが全員を直接管理しているのではなく、管理の行き届く範囲の人数を直接管理し、それぞれに部下がいて……という形で、ツリー状に構成されています。それぞれの管理者が目の届く範囲で管理できる状態だからこそ、指揮系統が成立するのです。

その④命令統一性の原則

さまざまな人から同時に指示される環境では、メンバーは混乱し、組織としての秩序の維持も困難でしょう。組織が秩序立って運営されるためには、ひとりの部下に対しひとりの管理者が指示命令をする状況であることが必要です。「その③統制範囲の原則」でも指揮系統について触れましたが、統一した命令を、各管理者がそれぞれ目の届く範囲の部下に伝達する状態を繰り返すことで、全体の決定事項がしっかり伝わり、共通認識を持って業務を円滑に進めることができる状態となります。

その⑤権限委譲の原則

経営者はイレギュラーな業務の対応に専念し、その他の業務は部下に任せるということです。組織の代表の場合であれば、経理や営業などの会社を構成する機能はそれぞれ各部署に任せ、その代わり、会社全体の方針や、大局的な視点を持った意思決定を担っています。そして、権限委譲の原則は、経営層だけのものではありません。組織の幹部クラスでなくとも、各部署・各現場における「管理者は管理業務に専念し、現場業務を部下に振り分ける」といった状況でも、権限委譲が行われています。

強い組織には、組織全体のつながりと、それを構成する個々人の役割意識と結束が欠かせません。ここで、強い組織に共通する条件を見ていきましょう。

①組織の価値観や目的を共有できている

組織にはそれぞれの価値観があり、会社組織の場合には「企業理念」がこれに当たります。この価値観を、組織の持つ目的とともに、組織の末端まで共有できているということが重要です。組織を構成する各部署や、そのなかのメンバー一人ひとりがこれを理解し、個々人の役割を果たしていけるかといった視点で見直しましょう。

②組織課題をメンバー個々人の「自分ごと」に落とし込めている

組織を構成する個々人がそれぞれの役割を果たすためには、組織課題を「自分ごと」として捉え、向き合うことができるかという点も重要です。メンバーそれぞれが各課題に対して自分が果たすべき役割を見出し、連携し合うことで、組織としての働きが強固となっていきます。そのためには、単に「上層部から通達された目標」という捉え方に終始するのではなく、目標を部署や個人のタスク単位まで落とし込んで、取り組むようにする必要があります。

③現場単位での「権限委譲」ができている

組織を強固にするためには、メンバーが主体的に役割を果たせる状態に育成することが必要です。日々の業務に上司やメンターによる指導を行いながら、任せる範囲や裁量を少しずつ広げていくことで、組織を支える人材となります。こうした現場単位での「権限委譲」を実現することで、個々の人材も、組織としてのまとまりも強化されていくでしょう。

④プロセスも評価基準に取り入れている

個人のがんばりを適切に評価する「成果主義」は従業員のモチベーション維持・向上に効果的な評価方法です。一方で行き過ぎた成果主義では組織がギスギスした雰囲気になり、組織としてのパフォーマンスが発揮できません。「結果がすべて」と自分の担当業務だけに固執し、上司や部下・同僚をライバル視したり、足を引っ張ったりと助け合いの意識が薄まります。

従業員同士のつながりを活性化し、チームワークを発揮できるようにするためには、結果につながるまでのプロセスも評価基準に組み入れることが重要です。評価基準を明確にし、従業員が気持ち良く働けるような環境・ルール作りに取り組みましょう。

⑤適切な人材育成が行われている

強い組織を作るためには個人の成長が欠かせません。スキルアップによって会社全体の業績向上が期待できるだけでなく、従業員の自己実現によるモチベーションの向上や満足度・会社への愛着・帰属意識などの向上にもつながります。

人材育成を考える際は、スキルアップの道筋を可視化していくこと、従業員自身に目標や課題を見つけさせることが重要です。人材育成の意義を正しく理解させ、意欲的にスキルアップに臨めるような環境作りをすることや、「やらされている感」を払拭し当事者意識を持たせることを意識しましょう。

なお、従業員の「帰属意識」は、安定した企業経営のためにも重要なポイントです。帰属意識について詳しくは、「帰属意識とは?離職を防ぐために必要な理由と低くなる原因の対処方法」をご参照ください。

強い組織づくりに有効な施策とは?

組織力向上のためには、具体的にどのような施策を展開すればよいのでしょうか。

①ポジティブなコミュニケーションの促進

現場単位での権限委譲を成功させるためには、権限委譲後のコミュニケーションをいかに円滑に取れるようにしておくかが重要です。現場でスムーズに連携が取れるように、ふだんからプラスのコミュニケーションを促進しましょう。

プラスのコミュニケーションのための施策としては、「メンバー同士の交流機会の提供」や「お互いに認め合い、モチベーションの維持向上につなげられる風土づくり」が挙げられます。

「メンバー同士の交流機会の提供」の事例には、リフレッシュスペースの整備やフリーアドレス制の導入があります。なかには、会社の補助によってランチミーティングを推奨しているケースも。強制力を持たせず、あくまでも「自発的にコミュニケーションが促進される場」を組織としてサポートすることが重要となります。

また、業務のなかでのコミュニケーションにも留意する必要があります。業務中に妨げない形でコミュニケーションを円滑にするためには、「お互いに認め合い、モチベーションの維持向上につなげられる風土づくり」を促進することが有効です。そのためのポジティブなコミュニケーションとして「業務のなかで褒めあう」ことがあります。昨今では「褒めて伸ばす」というキーワードを見かけますが、部下を褒めることによって部下のモチベーションを上げるだけではなく、組織全体の運営や褒める側の業務遂行上にもさまざまなメリットがあります。

詳細は「褒めて伸びる職場づくり!業務を円滑にする褒め言葉のポイント」をご参照ください。

② 組織の価値観を共有し、「自分がこの組織で働く意義」を実感させる

組織全体のコミュニケーションだけではなく、組織に属している個々人の意識づけも欠かせません。

組織のなかには、さまざまな性質や属性の人が集まっています。その性質上、一方的にひとつの価値観を押し付ける方法では、個々が帰属意識を持ちつつ「自分自身がこの組織に属している意義」を見出すことは難しいものです。まずは組織全体の理念や組織の進むべき方向性を、メンバー個々人が「自分ごと」として捉えられるように共有できることが重要となります。

企業理念を自分のものとして共感してもらう施策には、「企業理念のアップデートに一般社員が参画する機会を設ける」「個々人の働き方やライフスタイルに落とし込んで伝える」など、組織の価値観を「自分がこの組織で役割を果たす意義」に落とし込める機会づくりが挙げられます。

③メンバー自らが思考し、スムーズに意思決定ができる環境を作る

理念だけではなく各部署の機能においても、組織の上層部から一方的に伝達されるのではなく、メンバー個々人が自発的に思考し、取り組むように促すことが欠かせません。そのためにはまず、現状の業務フローの見直しと、現場での意思決定をスムーズに行うことが可能な体制構築が必要です。そして、各メンバーの役割に応じて適切な権限と責任を持たせるようにします。それと同時にメンバーを指導育成し、現場での権限委譲が促進される環境を整えましょう。また、取り組みがうまくいかなかった場合にフォローができる体制も考慮する必要があります。

一人ひとりが参画できる組織作りを進めよう

組織づくりと言うとスケールの大きなものを想像しがちですが、組織全体のものだけではなく、組織を構成する部署やメンバー一人ひとりが参画できる取り組みもあります。

価値観の共有についてはミーティングやセミナーなど、コミュニケーション促進においてはDXツールを導入し、社内の連絡ツールを分析して施策を打つなど、さまざまな手法があります。組織の現状や業務の運用方法、メンバーの働き方に合った手法を選び、一人ひとりが抵抗なく取り組めるような方法を選びましょう。