プロジェクトマネジメントに携わる人にとって、PMBOKは耳にすることが多い言葉でしょう。PMBOKは、20年以上にわたって、プロジェクトマネジメントの世界標準として活用されてきました。しかし、近年の技術革新による環境の変化に対して実用性に欠ける内容となってきたことから、2021年に実用性を重視した内容へと大きく改定されました。
本記事では、PMBOKとはそもそもどのようなものかを説明するとともに、第6版から第7版にかけどのような改定がされたのかを紹介します。
PMBOKとは
まずはPMBOKについて説明します。
PMBOKの意味
PMBOKとは、Project Management Body of Knowledgeの略称です。アメリカの非営利団体であるPMIが、プロジェクトマネジメントにおけるノウハウ・手法を体系化してまとめており、1987年にガイドブック「A Guide to the Project Management Body of Knowledge」として発表されました。発表後、ガイドブックの内容が徐々に世界へ浸透し、今ではプロジェクトマネジメントの世界標準となっています。ガイドブックは4年に1度程度のペースで改定されており、現時点では2021年に改定された第7版が最新です。
PMBOKの目的
PMBOKの目的は、プロジェクトマネジメントの体系化とそれによるプロセスのマネジメントにあります。
- プロジェクトマネジメントの体系化
プロジェクトマネジメントという言葉が示す範囲や内容はあまりに広すぎるため、人によってイメージする内容が異なります(例:スケジュール管理、原価管理など)。PMBOKにより体系化されたことで、プロジェクトマネジメントという命題に対し明確なイメージを共有できるようになりました。
- プロセスのマネジメント
以前のプロジェクトマネジメントはQCD管理が中心で、目標に向けプロジェクトをコントロールするものでした。しかし、目標だけを定めてもプロジェクトがうまくいくとは限りません。目標だけでなく、目標までのプロセスもコントロールしなくてはいけなかったのです。PMBOKではそのプロセスもコントロール対象とすることで、プロジェクトのQCDを管理し、最終的に価値ある成果物をつくることを目指しています。
QCDについて詳しくは、「プロジェクトマネジメントに欠かせないQCD。管理するためのポイントとは」をご参照ください。
PMBOK活用のメリット
PMBOK活用のメリットとして、以下の2点があげられます。
- 効率的なプロジェクトマネジメントの実現
データにもとづいた知識により、効率的なプロジェクトマネジメントが可能です。必要な部分のみ都度参考にすることで、あらゆるプロジェクトに対応できます。PMBOKは数多くのデータにもとづいて作成されているので、プロジェクトマネジメントの経験が浅くても、活用することで成果を上げられやすくなります。
- 世界標準のノウハウ・手法を身につけられる
プロジェクトマネジメントにおける世界標準のノウハウや手法が体系的にまとめられているため、世界で通用するノウハウや手法を身につけられる参考書として活用できます。
PMBOK活用の注意点
プロジェクトマネジメントにおいて便利なPMBOKですが、活用には注意が必要な点もあります。以下に紹介します。
参考書として活用し、依存しすぎない
PMBOKにはプロジェクトマネジメントの具体的な方法や、トラブル対応時の対処法については書かれていないので、手順書のような使い方はできません。プロジェクトマネジメントを進めるうえでの参考書として活用し、プロジェクトごとに適切に応用する必要があります。また、PMBOKは数百人規模のプロジェクトを前提として作成されているため、規模の大きいプロジェクトひとつを管理するには適していますが、小規模プロジェクトや複数プロジェクトの同時並行には向いていません。そのため、PMBOKだけでプロジェクトマネジメントが完結するとはいえず、プロジェクトマネージャーとしてのスキルが必要となります。スキルを習得し、どのようなプロジェクトやトラブルにも臨機応変に対応できる知識と経験を積む一方で、PMBOKは参考書として活用するという使い方がよいでしょう。
知識やノウハウだけでなくコミュニケーションスキルも身につける
PMBOKを活用することで知識やノウハウは身につけられても、コミュニケーションスキルまでは習得できません。プロジェクトは複数人のメンバーで進めることが多く、プロジェクトメンバーだけでなく、顧客や協力会社など、さまざまな分野の人と接することがあります。コミュニケーションスキルがなければ、指示や説明が適切にできず、円滑なプロジェクトマネジメントの妨げとなるでしょう。
PMBOKのコンテンツとは、第6版と第7版の違いとは
ここでは、PMBOK第7版の構成内容を紹介します。PMBOKは、プロジェクトマネジメント標準とプロジェクトマネジメント知識体系で構成されています。それぞれの内容を見ていきましょう。
また、第7版が第6版からどのように変わったかについてもあわせてお伝えします。
プロジェクトマネジメント標準
「12の原則」で成り立つプロジェクトマネジメントにおける原則的指針です。指針なので、必ずしも従う必要はありません。実際にプロジェクトマネジメントを行う際は、各プロジェクトに合わせて具体的に調整する必要があります。
- スチュワードシップ:請け負ったことに責任を持ち誠実に行う
- チーム:互いを尊重し合い、協力的なチームを築く
- ステークホルダー:ステークホルダー(利害関係者)との連携により、関心・ニーズを把握する
- バリュー:価値の創造を重視する
- システム思考:システムの相互作用を認識し、全体の動きをとらえて対応する
- リーダーシップ:周囲のやる気を高めると同時に自らも学ぶ
- テーラリング:状況に応じ、アプローチの調整を図る
- 品質:プロセスと結果に品質を組み込む
- 複雑性:知識や経験にもとづき、事態の複雑さに対処・適応する
- リスク:リスクに対処し、最適化した対応をする
- 順応性と柔軟性:適応性・回復力を備える
- チェンジマネジメント:変更や改革により、あるべき未来を達成する
プロジェクトマネジメント知識体系
「8つのパフォーマンスドメイン」で成り立っており、プロジェクトの効率的達成のために網羅すべき行動領域を示します。プロジェクトに対し各ドメインが与える影響を説明しています。
- ステークホルダー(利害関係者):ステークホルダーへの関与と働きかけ
- チーム:チームメンバーに対するリーダーシップとマネジメントの適切な実施
- 開発アプローチとライフサイクル:成果物に対する開発アプローチと成果物の提供リズム・サイクルの適正
- 計画:結果を生み出すために必要となる組織化と各種調整機能
- プロジェクト作業:効率的かつ効果的なプロセスによる作業
- デリバリー(提供・納品):ステークホルダーに対する価値の提供
- 測定:パフォーマンスに対する評価
- 不確実性:あいまいさ・複雑さ・変動性などリスクに対する対処
第6版からの変更点
第6版から第7版にかけて大きく変更した点は以下の4つです。
- 「5つのプロセス群」から「12の原則」に変更
プロジェクトマネジメント標準は、第6版までは以下の「5つのプロセス群」で構成されていました。
- 立ち上げ:プロジェクトにおける目的・ゴール・予算・期限を定め、オーナーからプロジェクト立ち上げの認可を得る
- 計画:プロジェクトマネージャーにより暫定的作業計画を立て、プロセスが進むにつれ計画を詳細化する
- 実行:作成された計画にもとづき、チームでタスクに挑む。
- 監視・コントロール:次工程間で、検査・検証が確実に行われているか監視する。
- 終結:QCDを検証・評価したのち、プロジェクトを終結する。
- 「10の知識エリア」から「8のパフォーマンスドメイン」に変更
プロジェクトマネジメント知識体系は、第6版までは以下の「10の知識エリア」で構成されていました。
- 統合管理:他9エリアを統合する全体管理
- スコープ管理:プロジェクトにおける作業範囲・成果物を明確にするマネジメント
- スケジュール管理:高い生産性を維持し続けるスケジュール計画
- コスト管理:プロジェクトを予算内で終える費用管理
- 品質管理:高品質なプロセス・成果物を提供できる品質管理
- 資源管理:プロジェクト達成に必要となる人材・物資の管理
- コミュニケーション管理:メンバー間の情報共有管理
- リスク管理:プロジェクト進行中に発生する予測されるリスクの回避や対処
- 調達管理:プロジェクトの進行に必要となるサービス・ツールの調達管理
- ステークホルダー管理:ステークホルダーとの情報共有管理
- 成果物提供から価値提供へとシステムの変更
PMBOKではプロジェクトの目的を「価値の提供」としていますが、これは第7版からの新しい概念です。第6版まではQCDにより設定された目的、つまり「品質・費用・納期を守り、計画どおりの成果物を提供すること」が目的でした。しかし、予定や成果物への過度なこだわりは、環境変化が激しくプロジェクト途中でも予定や要求の変更が珍しくない現状に対応しきれない部分がありました。
「価値の提供」は「計画どおり」だけでなく、プロジェクトを進めるなかで価値向上の余地があれば臨機応変に採用し、積極的に価値のある成果物を提供することを意味しています。
- 手順の説明から原理・原則の提示に変更
第6版までは手順の説明が主な内容でした。プロジェクトマネジメントにおける手順をすべて網羅しようとしていたため、ページ数も辞書のように膨大だったのです。しかし、プロジェクトマネジメントの手法が多様化してきたことで、今までのように手順を網羅することが困難となりました。そこで、具体的な手順ではなく、プロジェクトマネジメントについての原理・原則を主な内容とすることで、手法の多様化へ対応したのです。内容が原理・原則になったことで、ページ数も少なくなりました。
なお、第6版まで手順の紹介として大部分を占めていたのがITTOです。ITTOとは「Input, Tools and Techniques, Output」の頭文字をとり省略化した言葉です。インプットの収集から、ツールにインプットしたあとでアウトプットするまでの一連のプロセスを指します。第7版では、このITTOが「モデル、手法、成果物」としてまとめられ、簡潔になりました。ITTOに関する詳細は、別途「PMIstandards+™」にまとめられています。
PMBOKの改訂内容を理解した上で活用しましょう
PMBOKは、プロジェクトマネジメントの知識体系であり、プロジェクトの計画から完了までのプロセスを体系的にまとめています。第7版は近年のプロジェクトマネジメントを考慮した改訂版であり、私たちが活用する上で必要な改訂と言えます。
PMBOKを学ぶことで、プロジェクトマネジメントの基礎知識とプロジェクトを成功に導くためのスキルを身につけることができます。しかし、実際にプロジェクトマネジメントを行う際には、プロジェクトの特性や状況に合わせて柔軟に活用することが重要です。
そのためには、まずは現在のプロジェクト状況を正確に把握することが必要です。
プロジェクトの現状把握には、「PJ Insight」の活用がおすすめです。
PJ Insightは、毎週1回、メンバーに対して、プロジェクトの品質、納期、コストやコミュニケーションなどの項目について、5段階評価で回答するアンケートを実施します。その収集結果を時系列データにして、プロジェクトの状況や炎上の兆候を可視化します。
メンバーが明確な炎上の兆候をプロジェクトマネージャーやPMOに伝えられない場合でも、データの推移からプロジェクトが低迷傾向にあるなど察知することが可能です。
データから炎上の兆候が見られた場合は、1on1などでメンバーからヒアリングを行い、炎上リスクに対し、早期にアクションを起こすことができます。
また、PMOはプロジェクトマネージャーの報告だけでなく、現場のリアルな声も把握することができ、適切な支援を行うことが可能です。
PJ Insightは、アンケート、プロジェクトの現状把握、炎上リスクの早期解決のサイクルを繰り返し、プロジェクトの状況を継続的に改善する、プロジェクトのヘルスチェックツールです。
30日間の無料トライアルをご用意していますので、ぜひこの機会にPJ Insightの導入をご検討ください。